過去の作品

「大家族50人の母として〜タイ・名取美和〜」

タイ北部の古都、チェンマイの郊外に広がるナンプレー村。この村の一画にある「バーンロムサイ」はエイズ孤児の施設、今年で開設5年目を迎えます。 現在ここで暮す子供達は2歳から12歳までの28人。皆、両親をエイズでなくし、自らも母親の体内で母子感染したエイズの子供達です。この施設を運営しているのが名取美和さん、58歳です。子供達からは“メーミワ”、美和お母さんと呼ばれています。
名取さんはそれまで、福祉とは全く無縁な人生を送ってきました。日本とヨーロッパを行き来し、引越しを繰り返す事39回、離婚も2度経験しています。父は国際的な写真家、名取洋之助。海外の情報が飛びかうような家庭で育った名取さんは16歳でドイツにデザインを学ぶために留学。若くしての外国暮らしは名取さんに、大きな影響を与えます。自立心、型にはまらない生き方……。22歳の時に留学先で日本人と恋に落ち、気がついたら妊娠。慌てて帰国、娘を出産。しかし、嫁ぎ先の古い考え方に反発し、即、離婚。その後は娘を抱え仕事に恋に忙しい日々、常に自分を優先、決してよい母親とは言えない生き方でした。
ところが50歳を越えてタイで出会ったある母子の姿が名取さんの生き方を一変させます。貧しい家の中で痩せこけ苦しむエイズの母親。その傍らで空を見つめる幼子。この母親が死んだら子供はどうなるのだろうか。誰にも見向きもされずただ死を待つだけなのか。この子達を助けたい。その後、ホーム作りに奔走、99年ついに「バーンロムサイ」の開設に至りました。 現在いる子供達はエイズ抑制剤の効果で健康な子とほとんど変わりなく元気に暮していますが、これまでには10人の子が亡くなっています。
今、名取さんは様々な問題を抱えながら前向きに“大家族の母”として奮闘しています。病気との闘い、周囲の差別の問題、タイ人スタッフと日本人の考え方の違い、高価な薬代をどうするのか。名取さんは寄付に頼らない運営をと、デザイナーとしての経歴を生かし、タイの伝統技術を活かした衣料品を作り販売を始めるなど、次々に新たな挑戦をしています。
番組は何気ない日常の中で日々育まれる家族の絆、名取さんと子供たちの喜び、悩みを見つめました。

●撮影:小谷野 貴樹 ●録音:佐竹 樹郎 ●編集:芦垣 均 ●音響効果:鈴木 勉 ●取材(AD):藤崎 みさき ●構成(D):後藤 和子 ●プロデューサー:平川 隆一